人生を変える洋楽

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Erutanの「Jabberwocky」を考察してみた

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Twas brillig, and the slithy toves
 Did gyre and gimble in the wabe;
 All mimsy were the borogoves,
 And the mome raths outgrabe.
 
 Beware the Jabberwock, my son!
 The jaws that bite, the claws that catch!
 Beware the Jubjub bird, and shun
 The frumious Bandersnatch!
 
 He took his vorpal sword in hand:
 Long time the manxome foe he sought
 So rested he by the Tumtum tree,
 And stood awhile in thought.
 
 And as in uffish thought he stood,
 The Jabberwock, with eyes of flame,
 Came whiffling through the tulgey wood,
 And burbled as it came!
 
 One, two! One, two! And through and through
 The vorpal blade went snicker-snack!
 He left it dead, and with its head
 He went galumphing back.
 
 And hast thou slain the Jabberwock?
 Come to my arms, my beamish boy!
 O frabjous day! Callooh! Callay!
 He chortled in his joy.

<解説>

この曲はErutanがルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』の作中にあるジャバウォックの詩をそのまま歌ったものだ。『鏡の国のアリス』は『不思議の国のアリス』の続編となる作品である。前作よりは日本での知名度は低いが、当時は2冊とも世界的な大ヒット童話となったらしい。前作の『不思議の国のアリス』の有名どころが、うさぎを追いかけて穴に落ちるシーンや奇妙なお茶会、チェシャ猫やトランプの女王による処刑場面だとしたら、『鏡の国のアリス』のテーマはチェスである。また後者は、英米の人々の感性に深く影響の与えている「マザー・グースの歌」の登場人物が出てくる。(マザー・グースは日本で言うと...もしもし亀さんや桃太郎あたりだろうか)

個人的には後者の方が、主人公のアリスにある程度の行動基準があって好きだ。

 

ジャバウォックの詩は『鏡の国のアリス』の作中でも割と序盤に出てくる。原型は作者のルイス・キャロルが2冊の童話を出版する前から温めていた詩であったらしい。

 

Erutanの曲についてだが

ハープや鈴、手拍子や笛が軽やかに鳴り響く一方で、全体として妙に重厚な雰囲気を醸し出していて面白い。Erutanの声と感性は民族的な音楽を得意としているが、それがこの曲で発揮されている。文学や詩を題材としてそこに独自の世界観を加えた音楽は、通常の曲とは別の意味で魂を震わせる美しさを持っている。

 

twas=it was

thou hast=you have (汝は〜を持てり)

 

古英語の響きも良い。

 

Erutanはアメリカ人だが、曲中の one, two, one, two の発音の仕方が独特である。憶測の域を出ないが、曲に趣を持たせるために、わざとスコティッシュな、あるいはアイリッシュな発音に寄せているのだと思われる。

 

 

不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』はナンセンス文学と呼ばれており、言葉をでたらめに羅列したような詩が沢山出てくる。ジャバウォックの詩もその内の一つであり、明快で論理的な解釈や意味の理解は望めない。

 

最近の英文学界では、シェイクスピアの研究が主軸になっているらしいが、もし自分が英文学を専攻するなら、間違いなくルイス・キャロルの作品を研究すると思う。イギリスの古詩としての形を完璧に保っているジャバウォックの詩にはもちろん興味があるが、『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』の、所々にちりばめられた皮肉や風刺、ユーモアや隠喩は数学者であるルイス・キャロルシュルレアリスム的な心象風景をそのまま表しているのだと思う。

 

詩の内容は、読んだヒロインのアリスさん(設定年齢7歳6か月)によれば、
「ともかく、誰かが何かを殺した」
のだそうである。 

(引用&参考:ピクシブ百科事典)

 

森に住む正体不明の怪物であるジャバウォックを、名前のない主人公が剣で倒すお話である。おそらくそれだけの疑似古詩だ。いわゆる言霊はそれ以上の何ものでもないのだ。

 

和訳が知りたい方は下のリンク先でぜひ読んで見てほしい。

 

ja.wikipedia.org

 

ジャバウォックに関しては、ディズニー映画『アリス・イン・ワンダーランド』を見ればこの生き物のイメージが湧くと思う。『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』を融合させたような、美しくも趣深く、非常に完成度の高い映画である。

 

偉そうに小難しいことを表面的な知識だけで色々と書いてしまったが、私自身はこの詩を心底美しいと感じた。

7歳より前の子供たちの世界観なら、実際こんなもんなのか。あるいは、精神病と呼ばれる病を患ったとされる、この世の理の外に生きる人々が見える世界はこんな感じなのか。

深淵に踏み入りたくなるくらいに魅力的な感性は、意外と私たちの身近にある。

 

それとも、作者のルイス・キャロルにとっては純粋な言葉遊びだったのだろうか。確かにtumtum treejubjubなどは声に出すだけでもとにかく楽しい。小さい頃にテレビで見たNHKの「にほんごであそぼ」が思い出される。惹かれるままに口ずまむように、言葉に触れた感覚は懐かしいものだ。

 

一 二! 一 二! 貫きて尚も貫く 

不思議の国のアリス』は楽しい。確かなのはそれだけで良い。